あらかわのエッセイ

三十代農民のつぶやき。

手紙。

「この歌しってる?アンジェラ・アキって人の、いい歌よね。」

私が大学の長期休暇で帰省したときのこと、そう言って母はNHKみんなのうたのテキストを見せてくれた。表紙には「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」と書いてある。新しい歌にはほとんど興味がなかった母がとても嬉しそうに話してくれた表情を、私は鮮明に覚えている。

小学生の頃、とある科学雑誌の巻末にある友達募集コーナーで募集した何人かのペンパル(文通友達)とやりとりをしていた。お互いの住んでいる地域や学校のこと、家族や友達の近況、夏休みの予定、趣味や習い事の話、相手についての質問、恋話など、いろんな話をした。質素な茶封筒にヤマセミの描かれた80円切手を貼って送ってくれる人もいれば、その季節を思わせる花柄やパステルカラーに彩られた風情のある便箋を封筒に入れて送ってくれる人もいたりした。ポストに入れられた手紙を手にとってそれを読みながら、ペンパルがどんな人でどんなことを思いながらペンをとったのか想像するのが、実に楽しくて奥ゆかしいのだ。

そんな私も中学校に上がり、部活や勉強などで忙しくなった。ペンパルも同い年が多かったからか手紙を送っても返事は来なくなり、いつの間にか手紙をやりとりすることはなくなった。字は汚かったけど活きのいい魚の絵を毎回送ってくれた男の子や、独裁政治から民主化への運動が激しかったインドネシアより毎月手紙を送ってくれた女の子は、今何をしているのだろう。

ラジオで時々この歌を聴くたびに、当時のペンパルと母のことを思い出す。ペンパルからの手紙は私の知らないうちに母に処分されてしまったけれど、母の遺した最初で最後の手紙は手元にある。寂しくなったときにこっそりとその手紙を開くと、どこかで母が応援してくれているような気がする。書いた人の気持ちを時間を超えて感じ取れる、手紙とはとても素敵なものだと思う。